私の幼馴染のあの子は、不揃いに短く切られた暗い色の赤毛に、宝石のアメジストのような紫の瞳をした少年でした。

 初めてあの子に会った時、その髪の下から覗くツリ目がちに縁取られたアメジストの瞳に、思わず見惚れました。そして思っていたよりも低く、しかし柔らかさを持つその声に、頭の中が痺れるようでしたわ。


 …どうにもあの子は、私を心の優しい聖女か何かだと思っている節があるように思えますが、決してその様なことはありません。

 寧ろ、私は欲深い女なのです。欲しいと思ったものは、どんな手を使ってでも手に入れてみせる自信があります。


 しかし、お父様もお母様も、私があの子に会うことにあまり良い顔はしてくれません。あの子は貧しいものであるので、それも仕方のないことに思えます。

 ですが、私が結婚適齢期だからと勝手にお見合いの席まで用意してしまうなんて!


 お見合いといっても、それは名ばかりのもの。お見合いにと用意された相手の家の方とは、既にお父様たちの方で勝手に話を進めていらっしゃる。ですので、その家の方と私が結婚することはほとんど決定事項なのでしょう。

 相手の家柄は、やはりある程度は栄えている貴族の家でした。そこのご子息と私が結婚したならば、この家は私の代は安泰。私も何不自由ない生活を送れるのでしょう。

 しかし、それでは駄目なのです。


 私は結婚するのならば、あの子と結婚したい。宝石の瞳を持つ私だけの愛しいあの子を、どうしても手に入れたい。

 執着にも似たこの気持ちは、男女間の恋物語のものほど甘酸っぱいものではなく、ドロドロとしたとても浅ましいもの。それは自覚していますが、私はこの気持ちに歯止めをかけるつもりはありません。


 …どうやら最近、お父様かお母様が使用人伝いにあの子に何か余計なことを言った様ですね。
 あの人達の戯言なんて気にしなくても良いのに、あの子は私に「僕に会いに来ないでくれ」と告げると、私の前から姿を隠す様になってしまいました。

 ですが、だからと言って諦める私ではありません。


 偶々、隣町から流れて来たという一人の魔女と知り合いました。その魔女は呪いに詳しいそうで、多額のお金を対価に、ある呪いを私にかけてもらう話をつけました。

 その呪いの名は【永遠の眠り】。私の運命の王子様からのキスがなければ永遠に目覚めることのない、強力な呪いです。


 そう、この呪いを解けるのはあの子だけ。私は他の殿方のものになる気は欠片もないのですわ。

 ですから、早く私の呪いを解いてくださいまし。そして私の王子様になって、貴方を私だけのものにして下さいな。