ーー彼女の目が覚める夢を見た。

 夢の中の彼女は、花が綻ぶように僕に優しく笑いかける。そうして柔らかな声でこう言った。


「いつも側にいてくれて、ありがとうございました。でも、もう大丈夫ですわ」



 *****


「はぁ……はぁッ……!」


 僕は夢から目が覚めて直ぐに、君がいるあの場所を目指して息を切らせて走る。その最中にも、夢でみたあの光景が頭の中を何度も何度も過ぎった。

 町を抜け、町外れを通り越して、その向こう側にある森の中を駆ける。
 息をする度に掠れた声が勝手に口から溢れて、きゅうぅっと締め付けられる胸が苦しい。

 ああ。早く、早く、彼女の顔が見たい。
 



 ーー町はずれにある森の奥。そこには彼女が眠る小さな家がある。

 ただ、それは家というにはあまりにお粗末な作りで、防犯の為のものらしい人避けの【結界】が気休め程度に張られている以外は、殆ど小屋と変わらないようなものだった。

 本来、彼女がそんな小屋に一人ぼっちで眠り続けるなんて、あってはならないことだ。…あってはならない筈なのだ。

 なぜなら彼女は恵まれるべき人で、幸せになるべき人なのだから。