「くり、今日は遠くに散歩へ行こうか。」

 ご主人の安心する声。

 僕の大好きな声。

「ワンワン!」

 僕は嬉しくてご主人に吠える。

「……よしよし。」

 ご主人はそう言って僕の頭を撫でる。

 この手も大好き。

 いつも優しく僕を撫でてくれたり、だっこしてくれたり、おやつをくれたりするから。

「じゃあ、玄関まで競争だ!」

 にかっとご主人は笑う。

 そしてびゅんと走っていく。

 ズルいよご主人。

「ワンワンワン!」

 僕も続けて走る。

 走っている時に嫌な予感がした。

 それで吠えようとしたんだ。

 でも、迷惑になっちゃう気がして。

 やめた。

「また、くりの勝ちかぁ。ほんとお前は早いなぁ。」

 僕は褒められた。

 だけど、心配する気持ちが大きくて嬉しい気持ちがしなかった。



 そして玄関を出る。

 今思うとこと時吠えておけば良かったかもしれない。

 そうしたら、少しは変わったかもしれなかったのに。