「何時になった?」

先生が少し左袖を捲る。

現れたシルバーの大きなフェイスのクロノグラフを私も覗く。

青い針が6時を廻って久しい。



「南条帰るか?」

「う、ん…」

もっと先生といたいけど…

もう邪魔になるよね?



「ちょっと早いけど俺も帰ろうかな。

中間試験から文化祭までずっと頑張ったから休み明け初日くらいサボっていいよな!」

いたずらっ子みたいな笑顔で先生が笑う。



「…先生一緒に帰れる?」

私が訊くと、

「あぁ、そうするか。」

と言って先生は手早くデスクの上を片付けた。



「職員室寄ってくから先に門に行ってて。」

そう言って先生はさっき私が渡した紙袋からマフラーを出して、自分の首にふわりと巻き付ける。



「うん。



……

…先生?」



ドアに向かいながら先生を振り返ると、マフラーに顔を埋めたまま立ち竦む先生の姿が見えた。



巻かれたマフラーを左手で顔に押し当てるようにして、俯いたままひとところを見つめている。



「先生…?」

私はもう一度呼び掛ける。



先生の深い瞳は物憂げに濡れたような艶を帯びる。



(先生…)



私は黙って長い睫毛が美しい先生の横顔を見つめた。

     *  *  *