「なにがあった」


体温を確かめるみたいに、両手で紅未子の耳から首にかけてを包んで、青くんが顔を寄せる。目を伏せて、「なんでもない」と弱々しく首を振る紅未子と彼の、よく似た横顔が向かい合わせに並んだ。


「いつもと同じ。ちょっとくっつかれて、気持ち悪くなっちゃったの」

「また同じ奴?」

「わかんない」

「明日は、俺が一緒に行く」


青くんがこつんと額を合わせると、紅未子の顔色が、すっと健康な桃色に戻った。


「一ノ瀬、俺、着替えてこなきゃならなくて」

「紅未子は私が見てるから」

「悪い」


申し訳なさそうに眉をひそめてから、彼は再び、積み上がった机の迷路へ戻ろうとした。その背中に紅未子が呼びかけた。


「アオ」


青くんが振り返る。


「…ありがと」


女子の中でも、かなり長身のほうに入る紅未子が、小さな子供みたいな、自信のなさそうな声を出す。

青くんはちょっと眉を上げて、私と紅未子を交互に見てから、紅未子に向かって柔らかく微笑み、バリケードの中に消えていった。


「ダメな姉ちゃん」


紅未子が、ぽつりとそうつぶやいた。




青くんと私は同級生だ。

去年同じクラスになり、二年生になった今もまた同じクラス。

紅未子も同様に、二年間同じクラスだ。だけど実際はひとつ年上。

青くんの年子の姉である紅未子は、私たちより一年早くこの高校に入学し、その年に入院した。そして出席日数の不足により留年して、弟と同じ学年になった。