「由鶴、なにしてんの」


先生の背中を見送っていた私の肩を叩いたのは、元気なポニーテールの皆川(みながわ)まなみだ。去年同じクラスだった。

私は入学早々紅未子と仲よくなってしまったおかげで、完全にクラスから浮いてしまった。わけでは決してない。

可もなく不可もない女子の強みで、注目もされない代わり、あえて仲間外れにされたりも絶対にしないのだ。


「さっきの、渡会と青くん? 怒られたのかな。休みがちだもんね、部活」

「そうだね…」


まなみはソフトボール部だ。野球部の隣で部活をしているから、青くんの状況がわかるんだろう。この後も部活らしく、エナメルのバッグを肩にかけている。


「あんなお姉ちゃんがいたんじゃ、仕方ないのにね」


そう言って気の毒そうに息をついた。

"仕方ない"

確かにそう言いたくなる。

青くんのすべては紅未子を守ること捧げられている。多少じゃ済まないくらいのものを犠牲にしたとしても、それを当然と受けとめているように見える。

たぶん本人は、仕方ないとも思ったことがないだろう。

彼は呼吸をするように紅未子を守る。


* * *


カキン、という金属バットの音と共に、硬球が高々と打ちあげられた。無理じゃない?と思われたその球を滑りこんで捕り、鮮やかに返球したのは青くんだ。

もう一球、渡会先生が打ち上げた球は、青くんの頭上を大きく超えて彼をまた走らせる。瞬間的に全力疾走をして、余裕すら感じさせるタイミングで球に追いついた青くんは、危なげなく捕球し、返した。

それで終わるかと思った青くんの番はまだ続き。内野に散らばったほかの部員が急な指名に備えて構えている中、青くんだけが延々とボールを追い続けていた。

私が校門を出る頃にも、「小野」と怒鳴る渡会先生の声が聞こえた。