一度、休日に、私の家からほど近いアウトレットで紅未子たちが撮影をしているところに出くわしたことがある。早朝、店舗が営業を開始する前の時間を使って行われていたそれは、想像よりもずっと事務的で、きびきびと寡黙なプロたちの仕事だった。

そこでも紅未子は際立って可憐な存在に見えたけれど、ほかのモデルの子たちと区別されることもなく、一様に扱われ、本人も自然とそこにいた。

キャバリアを散歩させていた私は、そのとき初めて、どうして紅未子が、よけい目立って叩かれやすくなるようなモデルの仕事なんていうものを続けているのかわかった。

彼女には、どうしても必要なのだ。きれいなものを見飽きている人たちに囲まれる時間が。


「おはよう」

「わっ…、青くん、おはよう」


稼働をやめた焼却炉の前にある、緑色の大きなバスケットに雑誌を投げ入れて、教室に戻ろうと方向転換した瞬間、真後ろにいた青くんにぶつかりかけた。

彼がバスケットに目をやって、顔を曇らせる。


「いつも悪い」

「紅未子は?」

「朝、ちょっと調子悪くて。遅れて来る」


並んで校舎に向かう彼は、紺のブレザーに、グレーのチェックのズボン姿。肩にかけた学校指定の合皮のスクールバッグは茶色で、ローファーも同じ色。

ごく真面目にその制服を着こなす青くんは、たぶん紅未子の存在がなくても注目されただろう。

えっ、と振り返ってしまうほど整った顔立ちは、紅未子と同じで、きれいなのにどこか幼い。すらりと高い背は、立ち居振る舞いが控えめなため威圧感もなく、バランスのいい体格のおかげで背ばかり高いという印象もない。

あまりしゃべらず、決して騒がず、いつも静かに紅未子のそばにいる。彼は最初から、そんな男の子だった。

渡り廊下から校舎に入る手前で、靴を履き替える必要のある青くんと別れた。

「じゃあ」と軽く手を振って昇降口のほうへ向かった彼が、数歩先でなぜかぴたりと足を止める。

彼の視線の先には、グリーンのネクタイの上級生がいた。向こうも同じく青くんを見て、昇降口に入りかけたところで動きを止めていた。

その金に近い茶の頭を見て、あっと思った。例の"高田先輩"だ。

うわ、紅未子、いくらなんでも、あんないかにも厄介の種になりそうな人にまでオーケーしなくても。ついそう思ってしまうくらい、その先輩はいかにも軽そうで、遊び慣れていそうで、悪いことに二枚目。