「前方不注意」
向こうの山はオレンジ色から赤のグラデーション。反対側を見ると夜が迫ってきていました。
先生が残っているから開いている校門を通ります。
窓からは光が差し込んでいるのに、暗い印象を受ける、不思議な様子の廊下。

夕方はすぐに消えて、夜が来ます。だから階段を駆け上り、職員室に行きます。
鍵を借りて、誰もいない教室に入ります。

宿題を回収し、椅子を戻しました。振り返ると、大分暗くなっていました。私の家の方はもう真っ暗です。


急に、空気が冷たくなりました。真っ暗で誰もいない教室が怖くなって、すぐに鍵を閉めました。

鍵をまとめている紐を指にかけ、早足で廊下を歩きます。鍵同士がぶつかる音が絶え間なく鳴ります。
私は別の音も鳴っているのを知らないふりして歩きました。

職員室まで行けば助かる。なぜかそう思っていました。

走ってはいけない。存在に気付いたことを気づかれてはいけない。
足が前に出てきます。休むことなく……。

足音と視線が私を焦らせます。逃げろ、逃げろと心臓が脈打ちます。

三階に来ました。職員室はこの階段を降りてすぐです。

左足を降ろしたところで、違和感を感じました。追われていない……?


肩に手を置かれました。冷たくて青白い手でした。

後ろにいたのは、青白くて痩せている、真っ黒な目の男でした。

……そこから先の記憶はありません。ただ、目覚めた場所は家のベッドで、宿題の存在も消えていました。