深夜二時になった。特に変わったことは無い。窓の外をずっと見るのはつまらない。幽霊も見たくない。

あくびをして、ボーっと窓の外を見る。すると、足音が聞こえてくる。ジェームズは身構えた。

「間違いない、日本人だ!」

トーマスが指をさす。ジェームズは見てる振りをして見ないようにする。

部屋の中が静かになると、嫌でも足音が聞こえてくる。

おかーちゃーん、痛いよう……。

子供の声も聞こえる。こんなところに子供がいるわけがない。スティーブンの話とは違うが、幽霊だ!

見たくないのに、動くことができない。早く去ってくれ!と願った時、足音が止まった。
消えたのか?

「おい、トーマス……」

トーマスの方を見ると、真っ青な顔で目を見開き、脂汗をかいていた。

「どうした!」

肩を揺らすと、トーマスが口を開けて指をさす。見ると……。

焼け焦げた母親、母親に抱かれている元気の無い赤子、煤だらけの子供がいた。動けるのが不思議なくらい酷い姿だった。

「うわあああ!」

思わず後ずさりする。そして、足に力が入らなくなり座り込んだ。

「……子供だけは……助けて下さい」

絞り出すような声で母親が言った。胸のあたりがずきんと痛んだ。

「あなたも助けますよ。ジェームズ、救急箱とお菓子を持ってこい!」

立てない俺になんてことを言うんだ!それに……無駄じゃないのか?
しかし、ジェームズはマークが声を張り上げるので行かなければいけないなと思った。

棚から救急箱と机に置いてあるお菓子を持って行く。

「ほら」

マークが救急箱から中身を取り出している間に、ジェームズはお菓子を渡そうとした。しかし、その間に親子はいなくなっていた。

「トーマス!よかった、起きた……」

気を失っていたトーマスが起きたらしい。

「何でだ……まだ何もしていないじゃないか」

ジェームズは持っていたお菓子を握りしめる。何もしてやれず、悔しかった。

その後、親子の幽霊が出たという話は聞かなくなった。どうなったのかは分からない。

その後、ジェームズは軍人を辞め、アメリカに戻って自分の店を開いた。戦争が嫌になったのだ。何の罪も無い人々の命を奪った戦争が……。