作家たちの話

「ただいまー」

主人が仕事から帰って来た。優香は野菜を切る手を止めて振り向いた。

「おかえりなさい」

あのときの光景を忘れた訳ではない。しかし家事はしなければいけないので、憂欝になりながらも夕食を作っていた。

肉を食べる気にはなれないので、主人の分だけ魚を用意した。赤身だけは触りたくない。そう思って、スーパーでは自然とホッケに手を出していた。

魚は出来るだけ調理時間を短縮したい。感触が気持ち悪くなってきた、
ホッケを魚焼きグリルにつっこみ、すぐに野菜を鍋に放り込む。野菜を触っている時は気分が紛れた。

次はほうれん草のおひたしを作ろうとまな板に目を移した。すると……


ありえない光景。まな板に血が飛び散り、肉片が乗っている。

「いやああああ!」

「おい、どうした!」

「まな板!まな板に!」

必死に指差して伝えたが、いぶかしげな顔をするだけだった。

「野菜がどうした?」

「え?」

恐るおそる見てみると、細切れになった野菜意外ついていなかった。

「やだ……ごめんなさい」

「野菜で怯えるなんて、疲れてるんだな。今日は夜更かししないで早く寝るんだぞ」

確かに見たはずだった。しかし、今は普通のまな板だ。
ショックで幻覚が見えてしまったのかもしれない。しかし、あのとき肉片は見ていなかった。見たことは無かったが、肉片だとわかった。


「魚食べないのか?」

「うん、ちょっと気分が乗らなくて……」

昨日の残りの、ひじきと大豆の煮物を口に運ぶ。
いつになったら肉を食べられるように、タンパク質を摂れるようになるんだろう。