ここに来てから、霧花は夏休みを満喫していた。

川で泳いだ後にバーベーキュー、夜には本物の蛍を見た。川に無数の光が灯った。蛍に手を近づけると手がぼんやりと照らされる。

幻想的で、全てを忘れてしまいそうだった。

お父さんと一緒に山を探検し、あけびと謎の実を見つけた。
その時撮った写真はかばんの中に、大切にいれてある。

夏でも涼しくて、明日を楽しみにしながらすんなりと眠りに落ちることができた。

明日、ここを出るという日。霧花はなかなか寝付けなかった。落ち着かないのだ。

別れを惜しんで、洋館の中をぐるぐるとまわる。来たばかりの時の様に。

奥の方に進んで行く。
そう言えば、おばさんは食べられる実のことを教えてくれたり、山で蛭に注意するよう言ってくれた。
そんなことを思い出しながら歩く。

ガサッ……ガリガリ……。
何か音がする。これが、おばさんの言っていた動物の……。
どんな動物なのか見たくて窓を見る。


若い女の人が、食べられていた。
赤い肉から白い骨が飛び出す。骨までガリガリと貪る。
何かを言いたそうに口を動かすが、声は出ていない。

目をむき、抵抗する力も無くなっている。白目に血が伝うが、目は見開かれたままだった。

グチャグチャと肉を食い散らかすおばさんは、こっちに気づいていない。

霧花は恐怖で立てなくなり、床に這いつくばる。
汗ばんだ手で進みながら、後ろを気にしていた。

階段のところまで来たとたんかけ登り、部屋で布団を頭まで被って寝た。

朝起きるとすぐに荷物をまとめた。朝ご飯はのどに通らない。特に、ベーコンは見るだけで気分が悪くなる。

なかなか終わらない親の準備にイライラする。爪を噛んだり、睨んだり。

四十分程かかり、やっと荷物をまとめ終えた。
霧花はさっさと車に乗り込む。しかし、二人はここを出るのさえのんびりとしている。

もし今おばさんが出てきたらと考えると怖くなる。怖がりながらも後ろを振り返った。

ちょうど、扉が開いた。全身がヒヤリとして、すぐにかがみこむ。

どうか私に気づかないで……!お母さん、お父さん、早く来てよ!

やっとこっちの扉が開き、お母さんたちが乗った。
エンジンがかかると安心し、まるで安全地帯にいるような気持ちになった。

ここまで来ると、昨日のことは夢なんじゃないかと思い始めた。後ろが気になり、振り返った。

おばさんは霧花を恨めしそうに睨んでいた。