「あら、終わったのね。ちょっと待って、もうすぐできるから……」

椿森 ひばり(つばきもり ひばり)がそう言ってからスープの味見をする。

椿森も有名な作家で、最近はドラマの脚本も手がけている。三十一歳。
綺麗な黒髪で右目を隠している。隠す理由を聞いた時、特に無いと答えていた。

「上手く出来たぞ!高時、この俺が後で作り方教えてやるよ!」

石蔓が完成したサラダを見て目を輝かせる。

「サラダの作り方くらいパソコンで何とかなるし別にいいわ!」

高時はつい敬語を忘れてしまっていた。
石蔓は自画自賛することが多い。最新作が売れて自画自賛に拍車がかかっている。年齢は二十三歳。

「はーい、出来たわよー」

椿森がそう言うと、三人が集まってきて料理を次々と運んでいく。

「いただきます」

手を合わせたあと箸を取る。今日はパプリカのスープ、サラダ、鮭のムニエルだ。

「美味しい!」

「だろ?おかわりもあるからな」

高時はスープを飲み干した後、鮭を食べていく。
高時の皿の小さくなった鮭の身を見た石蔓が、バランス良く食べたほうがいいぞと言った。
それを受けてその後はサラダと鮭を交互に食べた。

「ごちそうさまでした!」

高時は皿を持って台所に行く。

「それだけで足りるのか?」

「はい」

高時は皿を置いて、階段を上っていく。

「どこ行ったんだ?」

「きっと書斎に行くんでしょう。昨日見つけたんです」

スープの器を机に置いてから高郷が言った。

「書斎?昨日に?そんな余裕あったのか?」

昨日は事件があり、皆そんなことをしている余裕は無かったはずだった。

「寝る前、気になるから三人で入ってみたんです。ちょっと古いですが本がいっぱいで……」

「それは気になるな……」

椿森は書斎に興味を持ったらしい。食べ終えたらすぐに行きそうだ。

石蔓の予想通り椿森はすぐに書斎に行った。島矢と高郷は食器を洗う。

石蔓は書斎に行こうとは思わなかったので、窓から庭を見ながら次回作について考えることにした。