作家たちの話

「牛の首」
少し昔の話。

と殺場から、牛の悲しそうな声が聞こえる。
布団にくるまって耳を塞ぐけど、最期の声は飛び込んでくる。

「お母さん!」

「朝から何よ」

「引っ越したい!もうここは嫌!」

私、松田 深咲(まつだ みさき)は朝食のソーセージを前にして、不満を口にした。

「無理よ。引っ越すのにどれだけお金がかかると……」

「こんな糞田舎さっさと出ていきたい!それに……と殺場の近くは嫌なの」

逃げる牛と追い詰める人。そうしないと肉を食べられない。今の私たちが肉を食べずに生きていくというのは不可能に近い。
わかっているけど、我慢できない。

「けどね、引っ越しは無理」

「そうだよ。それに田舎の方が楽だよ。都会の空気なんて田舎に慣れた私たちの体には合わないよ」

お姉ちゃんの美由紀(みゆき)が同調する。

「何よ。都会の空気を吸ったこともないくせに」

そう言った後、牛乳をグビグビと飲む。

「あのね、生き物っていうのは何かの命を犠牲にして生きてるの。それにさ、あそこがあるからこの土地代で、家にお金をかけることができたんだよ」

「お金をかけたのはおばあちゃん用の手すりじゃん!私には直接関係ない!」

乱暴に箸を置いて、洗面所へ走る。
鏡に映る私は、本っ当に不機嫌だった。