作家たちの話

「可愛いでしょ。ずっと見てても飽きないの。指を近づけると握ってくれて……」

話すだけで自然と笑顔になる。樹は子供が好きだからきっと可愛いって思う。

「お前……」

ベッドから目を離し、私の方を向く。


「ここにお前の子供はいない」


私の肩を強く掴んで言った。

「なっ何を言ってるの……?そこにいるじゃ」

「これが、子供に見えているのか?」

樹は指をさした。

やめて。壊れる……!
とっくに崩れかけていたのはわかっている。けど、受け入れたくない。

落ち着こう!この子の存在を感じるんだ!そうすれば……。
いつものように抱き上げた。

ミルクが床に溢れ落ちる。

「見えるか」

そこには、ミルクを吸い込んだ熊のぬいぐるみがあった。

私は泣き崩れる。
いないの。私の子供は。


「これは……?」

夫の服から落ちた付箋を拾った。

「やめろ!見るな!」

その声が聞こえたときにはもう遅かった。
仕事での連絡と思われる文の下に……。

「何……これ?先週はありがとうございました……またあそこに行きましょう?……先週は出張って言ってたよね!?」

「あー出張は二人で……」

「また行きましょうっていうことは、仕事と関係の無いところにも行ってるよね!?それに、何もないなら見られても」

「うるせーな」

舌打ちした夫は私を突き飛ばした。

激痛が私たちを襲う。
倒れる私と床に広がる血を見て真っ青になっている。

すぐに救急車が呼ばれたけど、あの子は助からなかった。


「思い出したか」

「うん」

この悲しい現実を受け止められなかった私は、熊のぬいぐるみを子供と思い込んでいた。その内、子供に見えるようになった。

「一度でいいから、お母さんって呼ばれたかったなあ……!」

おかあさん。

頭の中で女の子の声が響いた。

すこしのあいだだったけど、おかあさんにだいじにされてよかった。またおかあさんの子になりたい。

「こんな私で良いなら……いつでもおいで。今度こそ守るから……!」

ありがとう。

それが最後の言葉だった。