作家たちの話

「雨とペンキ」
荷物が搬入される中、二人は新居を眺めていた。結婚一年目の夫婦、御手洗 敦と清乃だ。
右隣は空き地、左は白い壁が綺麗な新しい家。

「さっ、中に入ろう」

敦は清乃の背中を軽く叩いた。

「っ!……ええ」

ぼーっとしていた清乃は、パチッと瞬きをしてから後を追った。

新しい壁紙が少しずつ隠されていく。家具も新品が多かった。何も置かれていないただ広いだけの部屋は、人が住めるようになっていく。

搬入が終わり、一息ついた。

「終わったー!」

ぼふんとソファーに腰を落とした。清乃が紅茶を入れたので、二人でゆっくりしていた。

「あっそうだ!挨拶回り……」

「ああ、そうだな……」

ちょうど飲み終えた頃、思い出した。
今は午後の三時。時間は大丈夫だ。手土産を持ってまずは隣の家に行った。

隣は子供が二人いた。小学校の低学年くらいで、挨拶に来たときもバタバタと走り、母親に注意されていた。
二人とも深夜に騒がなければ気にしないし、その時間帯には子供たちも寝ている。

普通の家族だ。ご近所トラブル、なんてことは起きなさそうだと思い、安心した。

他の家もまわり、残るは最初に行った家の裏だ。ポストには手紙や新聞紙が詰め込まれ、はみ出していたが植物は手入れされていた。また、ときどき物音がする。

人が住んでいるのか分からないので聞いてみた。すると、誰も知らなかった。

人が住んでいそうだが、ポストはそんな状態で、どんな人が住んでいるのか誰も知らない。

それでも一応呼び鈴を鳴らした。
レースカーテンの向こうで誰かが動く。しかし、姿を現すことはなかった。

仕方なく、挨拶の手紙をぎゅうぎゅう詰めのポストに押し込んで帰った。