馬鹿じゃないのあの男。

こんな指輪渡されたら、忘れたくても忘れられないじゃないの。

男ができたらって、元からできる可能性なんて低いのに、あんたの形見を持ってたらその可能性すら自ら捨ててしまいそうだよ。


──離婚届を出してから十日。

泣いてばかりいた日々だけど、ようやく悲しみから少し抜け出せた。

悲しみを怒りに変えたから。


龍成を思い出しては泣いて、指輪を見ては泣いて、仕事中以外は何かにとりつかれたみたいにとにかくひたすら泣いていた。

このままじゃ駄目だと思っても感情を抑えられなかった。

それが離婚届を出してから一週間後、龍成の誕生日だったことに気づいた。

わたしが龍成の誕生日を知ったのは離婚届を見たから。それまでは知らなかった。


本当なら一緒にその日を迎えられたのかな。でも離婚届を見なきゃわからなかったから、結局お祝いはできなかったのかな。