時間になり玄関を出る。家には誰もいない。


お姉ちゃんは出かけるまでずっと、何度も何度も「考え直して」と言っていたけれど、この期に及んで気持ちを伝えたってどうにもならないと思った。


龍成が本当にわたしを想っていてくれたら。

それだけを必死に望んでいた。


車に乗り、もう一度鏡を見てチェック。


まだ瞼の腫れはとれていなかったけれど、朝よりはだいぶマシになった。いつもより厚めのメイクでなんとか誤魔化したつもりでいる。


「いつも通り!」


一言自分に言い聞かせて、気合いを入れ発進。

もう涙は流さない。そう誓った。



────



二時ちょうどにマンションに着くと、外壁にもたれながら俯いている龍成を見つける。

震えそうになる胸をぎゅっと抑え、ハザードランプをつけて停まった。


気付いた龍成は慣れた動作で助手席に乗る。


龍成がわたしの車に乗るのは、これで最後なんだ…。


「おはよ」

「おはよう。なんで帽子被ってるの?」


龍成にしては珍しくキャップを被っていた。

なんだか変にチャラさが増している。