一瞬、時が止まったのかと思った。

寝ぼけ眼に差し出された紙の意味を理解した途端、大きくドクンと心臓が動いた。

そのえぐられるような鈍い痛みは、わたしの気持ちの全てを表していた。


『離婚したくない』


強く、強く思った。


胸の痛みは全身に広がり、ある限りの感覚を麻痺させる程の衝撃。停止しそうな思考回路を必死で動かす。


──この気持ちがばれないように。

そればかりを繰り返し繰り返し唱える。


だって龍成があまりにも涼しい顔をしているから。


『もういらない』


そう言われている気がするから。


平静を装え、わたし。


「…もう準備したの?早くない?まだ半分でしょ?」


声が震える。動揺してるのバレバレだ…。


離婚届を見ただけでこれって、わたし相当龍成が好きなんだ…。自分がイヤになる……。


「昨日会社辞めるって親父と麻友ちゃんに言った。会社にはもう行かねぇ。結婚してる必要もない。だから解放してやるよ」


か、解放?!

てことは今すぐ離婚ってこと?!


うそ…。早過ぎるよ。心の準備が全然できてない…。