「いらっしゃいませ」


 胸が苦しかったというのも、数日も経てばその感覚は薄れ始め、結局私はあのキスのことは深く考えないことにしようという結論に至った。

 キスをされた日から、気づけば早一週間。知代さんとカフェで話をした日に〝都合の良い日をまた連絡してください〟と岩崎さんからメールが入っていたけれど、その返事はまだ返していない。

 返さないつもりだったわけではなく、ただ、バイトのシフトが入っていたから返していないだけ。

 今日のバイトが終わったら返そうかな、なんて思いながらカウンター下のレジ袋の補充をしていると、カウンターに二冊の雑誌が置かれた。

「あ、ありがとうございます」

 慌てて屈んでいた身体を起こす。そして、二冊の成人雑誌をレジに通した。

 お会計を済ませ、レジ袋に入れた成人雑誌を色白の男性に手渡す。すると、男性はお店の外に出て行った。

 その男性を最後に、静かになる店内。ふとレジ画面の時刻を見ると、〝22:34〟と表示されていた。

 この時間になると、徐々に客足が減る。遅番に当たることは滅多にないが、この時間は暇になってしまうから少し苦痛だ。