私は春優君を送ると言って家から出た。それから少し歩いて桜の木の丘に来ていた。
いつもの場所に着くと、私は両手を広げて空気を吸い、優しく吹きつける春の風を体で感じる。
「んー、気持ちー!」
「ここ、俺達にとって始まりの場所だよな。」
私が横を向くと春優君は前を見たまま話していた。
「うん、そうだね。」
思えばここで夕日を見た帰り、池であの二人に出逢った。それから変な夢を見始めて、春優君と出逢ったんだよね。現実だと思っていた事までもが夢で、最初はすごく戸惑った。
あ、そういえば池の伝説があったっけ。
古くから伝わる“純恋鬼(すみれおに)伝説”。
昔々、まだ無名だったこの池で、人間の女の子と鬼が出逢って恋に落ちた。女の子は人間でいるよりも恋い慕う鬼と共にいる事を選んだ。
今なら女の子が人間を捨ててまで、好きな人を選んだ気持ちもなんとなく分かるような気がする。


