彼の瞳を見た瞬間、

いっぱいだった呪文が真っ白に消え、一つの言葉だけが胸に残った。




『好き』が顔に現れる。


私は赤くなっていく顔を隠したくて、すぐに俯いた。




「あの、ちょっといいですか?」


彼の低いトーンの声が胸に響き、顔が更に熱を帯びる。


「ごめん、今忙しいから」



私は立ち上がり彼から逃げようとした。


ダメ!

これ以上無理!

また彼を知ってしまうことになる。


彼を知ってしまったら……




「ちょっ……待って下さい!」



彼の前から逃げ出そうとした私を、彼は逃がさなかった。



彼に掴まれた手首から、彼の熱が体中に駆け巡る。


初めて触れられたその手は、とても大きくて力強いものだった。