ベンチに背中を預けていた俺は、両手を脚の隣に着いて姿勢を正し、ゆっくりと足を手前に引いた。

その姿に愛実は目を丸くして言った。


「志則……足……」




さすが作業療法士。

言う前に気づいちまったか……。




俺は驚いている愛実の目を見て話をした。


実習最終日に転落事故で脊髄を損傷したこと。

実習先の先生や仲間に助けられて、理学療法士になり就職したこと。

時間がかかるけど、歩けるようになってきたこと。

実習指導だった先生と付き合ったこと……。



本当は俺と中嶋先生の関係を知って愛実は傷ついたと思う。

だけど、愛実は何も言わなかったし、聞かなかった。


ただ、「うん、うん……」 って相槌を打ちながら聞いていた。