「んで? 自殺したいと思った理由はなんなんだ? どうせ失恋とかだろ? お前みたいなバカ女が死にたくなる理由なんて、どうせそういう、つまらん下らんやつなんだよ。つーかさ、なんかつまみになるようなもん無いの?」


あたしの部屋のソファにどっかりと陣取り、勝手に晩酌を始めた佐藤は、そんな傍若無人すぎることを臆面もなく言ってきた。

あたしはムカつきつつも、急に空腹を感じて、冷蔵庫のなかからハムやらチーズやら豚の角煮やらを取り出してテーブルに並べた。


「失恋で死にたくなって、なにが悪いのよ! あたしにとっては大問題なの! つまらなくも下らなくもないの!!」

「へいへい、みーんなそう言うんだよなー、だいたい」


佐藤は適当に頷きながら、1ミリの遠慮もなくハムを5枚ほど口に放り込んだ。


「んで? どんなこっぴどい振られ方したら、衝動的に飛び降りようなんて思うわけ?」


佐藤はビールをあおってさきイカを噛みながら、にやにや笑って訊いてくる。


あたしは、もうどうにでもなれ、といった気分で、これまでの経緯を話し始めた。


あたしが話し終えると、佐藤は勝手に取りだしたグラスにウイスキーを注ぎ、勝手にあたしの話をまとめた。


「ふんふん。つまり、四年も付き合った彼氏が、実はずっと浮気してて、いきなり『お前より好きな子がいる、その子と結婚する』って言い出して、お前は呆気なく捨てられた、と」

「………まぁ、そういうことね」


あたしの心をズタボロにした失恋が、

永遠に続くように感じられた苦しみが、

こんなに悔しいなら死んでしまったほうが楽だとまで思えた絶望が、

他人の言葉では、そんなに簡潔にまとめられてしまう程度のことだと思うと、無性に虚しかった。