あたしは手すりに腰かけたまま、どうしよう、と混乱する。


『自殺なんてやめろよ』

『生きてれば良いことあるって』

『せっかくの命なんだから、死んだらだめだ』

『生きたくても生きられない人だっているんだから』


………みたいな言葉を言われることを、なんとなく想像していた。


でも。

佐藤はけろりと、こんなことを言った。


「あのさー、死ぬのはいいんだけどさ」

「………?」

「だから、どうぞご勝手に死んでくださいって感じなんだけど」

「………はい?」


冗談でも言ってるのか、と一瞬思ったけど、佐藤は真顔だった。


「ここで死ぬのはやめろ」


佐藤はきっぱりと言い切った。


「……な、なんで、あんたにそんなこと言われなきゃなんないのよ」


あたしがしどろもどろに反論すると、佐藤はぐっと眉間に皺を寄せ、「お前バカか」と言った。


あたしはさすがにムカついて、下に向かって怒鳴りつける。


「あんたねえ、さっきから黙って聞いてれば、初対面の人間に向かってアホだのバカだの、失礼にも程があるわよ!!」

「バカにバカって言って何が悪い」


あたしの説教をものともせず、佐藤は悪びれもせずに断言した。


「………なんで、今日はじめて顔合わせたあたしが、バカだなんて分かるのよ。あたしが東大出身でハーバードに留学してて英語ペラペラの超賢いキャリアウーマンだったらどうするわけ!?」


あたしは怒りに任せて叩きつけるように叫んだ。