愛を込めて極北

 「先に言っておくけど……。婚約者っていうのは、向こうが自称しているだけだから。楠木さんは受け入れたわけじゃない」


 さらに小さな声で教えてくれた。


 「自称? どういうことですか」


 「……詳しくは後ほど。ただヒントとしては、彼女は支援する側、楠木さんは支援を受ける側……という関係」


 そうだ。


 スポンサーの令嬢と、活動に際し全面的に支援を受ける側という、主従関係のようなものが二人の間には横たわっているんだ。


 もしかして支援する代わりの婚約という、政略結婚的な関係?


 ……いつしか私は、物事を自分の都合いいように考えようとしていた。


 そろそろ楠木が、パーティーお開きの挨拶を始めようとしている。


 ステージ脇では「婚約者」である副社長が、満足そうに見守っていいる。


 ドアが開けられ風が生じ、周囲の花の香りが辺りに漂ってきた。


 カサブランカの強烈な香りに包まれる。


 (白い……ユリ)


 リブラン社の「リ・ブラン」とは……フランス語で「白いユリ」。


 彼女の名前を関した会社名だった。


 きっと彼女の父親である社長が、愛する娘の名前を社名として用いたのだろう。