愛を込めて極北

 「おめでとうございます」


 各テーブルを挨拶して巡っているスーツ姿の楠木が、私や響さんのいるテーブルまで到達した際。


 まずこちらから祝辞を述べた。


 それから他の人たちと若干会話をした後、楠木は私の目の前に立ち。


 「今度……」


 何かを言いかけた。


 今度?


 それに続いて、どういうことを言うつもりだったのだろう。


 こんな公衆の面前で、あの夜のことをあれこれと語り出すはずもない。


 独身同士とはいえ、大っぴらにできることではない。


 にもかかわらず少しためらいがちな表情で、楠木は私に何か告げようとした。


 そして言葉を飲み込んだ。


 「……」


 「楠木さん?」


 無言で私の前で佇む楠木を、隣の響さんも不審に感じ始めた様子。


 と、その時だった。


 バン! とドアが勢いよく開く音が。


 何事かと振り返ると、そこには白いスーツ姿のゴージャスな女の人が。


 まるで背後の、カサブランカの花輪を背中に抱えているかの如く……。


 そして、


 「暁、ごめんなさい。飛行機が遅れて開始時間に間に合わなくて」


 「百合(ゆり)!」


 ユリ。


 すぐに思い出した。


 あの時楠木がベッドで口にした、私の知らない女の人の名前だ。


 そして楠木を下の名前で呼ぶ、この女の人はいったい……?


 「リブラン社の副社長よ」


 私の疑問を察したのか、響さんが小声で教えてくれた。