愛を込めて極北

 「……いいんだよ。風邪が悪化したり肺炎になったり、いっそインフルにでもなったほうが。東京に行かないで済むから」


 「東京?」


 私は「出発前」というのは極北への旅への出発前、という意味で口にしたのだけど。


 楠木はこの週末の東京への出発と認識したようだ。


 そして何が原因か全く分からないのだけど、急にキレだした。


 「……いずれにしてもスポンサーに迷惑かかるのには変わりないんですから、不摂生はやめてください」


 「お前に何が分かるんだ」


 口調も表情もとげとげしい。


 勝手に不機嫌になってる。


 「何も分かりませんが……。とにかく今のまま寝たら寒いので、何かかけたほうが」


 気に障るようなことをした記憶はないのだけど、なんか怒られてるみたいで不愉快。


 酔っぱらっていて気分が悪い八つ当たりなのだろうか。


 こっちまで気分が悪くなってくるので、どこかから毛布を見つけてかぶせたらさっさと帰ろうと思ったその時。


 「だったら暖めてくれる?」


 突然背後から腕を掴まれた。


 「ちょっと……」


 強い力で引き寄せられ、バランスを崩す。


 重力に導かれるままに崩れ落ち……。


 たどり着いた先はソファーの上の、楠木のさらに上。


 偶然この部屋に誰か入ってきたら、まるで私が楠木を襲っていると誤解されかねない構図。