愛を込めて極北

 ……前夜。


 楠木の執筆した旅行記が、ノンフィクション関連の賞を受賞したという連絡が事務所に入った。


 授賞式などはかなり先だけど、まずは内輪でお祝いということで、事務所にたまたま居合わせた数名で市内の居酒屋へ。


 まずは受賞のお祝いがメインだったものの、やがて目前に迫ったカナダ極北旅行への話題となり。


 私たちお手伝い組は飲み食いしまくりおしゃべりに盛り上がっていたのだけど、肝心の楠木がこの日はなぜか口数が少なかった。


 「楠木さん、東京土産待ってますよ!」


 極北の前に、楠木はこの週末は東京に行く予定が入っていた。


 以前から予定されていた、スポンサーとの話し合い。


 おそらく今年の旅に関する、出発前の最終打ちあわせ?


 第二の故郷とも称される極北の地に、もう少しで出発だというのに、楠木の表情が冴えないまま。


 今回の計画は、危険が伴うのだろうか?


 現地の氷の状況に関しては、刻一刻事務所に連絡が入ってきているけど、今年はどうも氷の状態が不安定らしい。


 それによって計画変更を余儀なくされているのか。


 それともイマイチ気の乗らないというか、資金が足りなくて希望した行程を取ることが叶わず、妥協を強いられているとか?