「……帰ります」


 起き上がり、ベッドから降りようとした時、


 「送ってく?」


 「結構です」


 即答した。


 「今私を送ったら、飲酒運転で逮捕されて罰金数十万没収されますよ」


 第一、車は私のだし。


 「……そうだったっけ」


 そしてそのまま枕に顔を埋め、再び楠木は眠りに落ちてしまった。


 送っていく、なんてどうせ社交辞令の一環で、最初からそんなつもりすらなかったのかもしれない。


 ていうか、私とこんなことしたのは……?


 「……」


 ここ数時間のことを思い出すだけで嫌悪感がして、私は手早く服を身にまとった。


 「では、失礼します」


 すでに深い眠りに落ちていて反応のない楠木に対し、挨拶だけはしてさっさと部屋を出た。


 階段を下り玄関で靴を履き、外に出て玄関前に泊めてある車のロックを解除した。


 そして乗り込み、数時間ぶりにハンドルを握る。


 すでに暦は春へと突入しているにもかかわらず、夜明け前の空気はまだ冷たく、寒かった。


 ふと空を見上げると、東の空が明るくなり始めている。


 日の出前に家に帰ろうと、自宅めがけて車を走らせた。