***


 ……。


 「……誰?」


 真っ暗闇。


 太陽の昇らない、冬至前後の極地もこのような暗さなのだろうか。


 ふとそんなことを考えてしまうくらいに、暗い暗い夜の闇の中。


 シーツの肌触り、まだ肌寒い室内の冷たい空気、そしてどうしようもないほどのけだるさを感じていた私のすぐそばで声がした。


 息がかかりそうなくらい、近い距離から……。


 いつもの癖で、枕元に手を伸ばす。


 携帯のディスプレイの光で、暗闇の中がぼんやりと照らし出される……。


 横顔のシャープな輪郭。


 「……」


 私の隣で先ほどまで寝ていたのは、楠木暁。


 これは現実であると、改めて思い知らされる。


 だがその時、予想外の事態に見舞われた。


 「●●……?」


 知らない女の名前を彼が口にしたのを、私は聞き逃さなかった。


 事務所にもそんな名前の女の人、存在しない。


 誰……?


 この私を誰と間違てるの?