愛を込めて極北

 「その頃日本は幕末以前だった、って言われると。時代を感じますね」


 「探検隊が出港したのはその頃だけど、艦長のフランクリンはイギリスがナポレオン率いるフランス海軍を撃破した、トラファルガーの海戦に従軍してたりするわけだから。すごいもんだよな」


 「ほんと、歴史上の話そのものですよね」


 「実際隊が遭難したと思われる辺りを歩いてみると、どこまでも荒涼とした風景は続いていて。きっと当時とはほとんど変わってないんだと思う。そんな場所をさまよっているうちに、まるで自分が当時の世界へとタイムスリップしたような感覚に襲われる。それからすでに170年以上も過ぎてるんだとは、にわかには信じられないくらいに……」


 「あの……」


 「ん?」


 「そろそろアクセル踏んでいいですか」


 「えっ」


 楠木に言われるがまま、渋滞中なのをいいことにアクセルを踏まず、エンジンブレーキのみで走行していた。


 オートマチック車ゆえ、アクセルを踏まなくとものろのろと前へ進む。


 しかしあまりに遅くて、前方の車との車間距離が空きすぎてしまい、後ろの車の運転手がイライラしながらこっちを覗き込んでいるのがバックミラーから確認された。