未だに展示会会場には、私以外の来訪者はゼロ。


 せっかくイケメンがマンツーマンで解説員役を買って出てくれているとはいえ……。


 あまり予備知識もなく、質問するようなネタもなかなか思い浮かばない。


 沈黙だけが続く。


 正面の写真に見入っているふりをしてごまかしながら、何か話そうと頭の中であれこれ考えていた。


 「……マリンブルーが美しくて、南国のリゾート地みたいですね」


 沈黙をかき消すために、シンプルな感想を口にした。


 「そうなんです。まさか北極海の浜辺だなんて、誰も気づかないかもしれませんね」


 そこに展示されている浜辺の写真は、青い海と白い浜辺。


 何も知らなければ、南国の浜辺と思い込んでしまいそうな。


 北極圏の寒い寒い海だとは予想もつかない。


 「夏場はこうして氷が溶けていますが、冬になると北極から流氷が押し寄せて来るんですよね」


 「その通りです。正確には冬ではなくて秋といいますか。年によっては九月にはもう流氷で海は閉ざされます」


 その一言がきっかけとなり、事実上の「専属解説員」はあれこれ熱く語り始めた。