愛を込めて極北

 「いや、倍くらいならまだいいほうかも。ものによっては数倍、五倍とかすることも」


 「なるほど……。日本でも離島は物価が高い場合が大部分ですよね。やっぱり輸送コストがかかるから」


 「向こうの遠隔地は、日本とは桁が違うんですよね。千キロ単位ですし」


 「そういえば、私の通ってる英会話の先生がカナダ人で、赤毛のアンの舞台となった辺り出身なんですが」


 「プリンス・エドワード島ですね。東部の」


 「はい。それで先生に、同じカナダ同士ってことで、もっと北のほうにある北極圏地方に行ったことがあるか尋ねたんです。そしたら即答、neverですって」


 「そうでしょうね」


 楠木は苦笑した。


 「北のほうはツンドラが広がるだけの不毛地帯だから、誰も行こうなんて考えないって一笑されました」


 「よっぽどのもの好きでない限り、そんなところに足を踏み入れようとはしないですよね」


 「でも人の興味関心って、一般常識には収まりきらないですよね。現に……」


 その時。


 「美花ちゃん、そろそろサプライズの時間だよ」


 女子部に呼び出され、会話は途中で中断されてしまった。