愛を込めて極北

 「この支笏湖って、冬でも凍らないんですね」


 言われてみると冬なのに波が打ち寄せている湖を眺めながら、本州から参加しているという男の人が楠木に問いかけた。


 ちょうど私の正面だったので、お肉を食べていると会話が耳に入ってきた。


 「北海道の湖って冬になると凍結して、その上でスケートとかワカサギ釣りとかするイメージなんですが」


 「そうですね……。北海道では冬は完全に凍結する湖が大多数ですが、この支笏湖は深さが300メートル以上あって深いから、それくらい深くなると冬でも冷え切らず、暖房効果みたいなのがあるんですよ」


 それから北極海の、凍結した海の話などを始めた。


 表面は凍結していても、その下にある海水が温度を一定に保つため、気温が下がってもそれほどではないと。


 むしろ陸地のほうが際限なく気温が下がると。


 「でも暖かいといっても、マイナス20度とか30度の世界ですよね。冷凍庫以下なことには変わりがない」


 「そのレベルの寒さに適応してしまうと、零度前後だと暑く感じるようになるんですよ」


 いよいよ完全に辺りは暗くなり、気温が下がってきて寒さに耐える私のそばで、真向かいでは楠木はまるで春とか秋のような肌寒さしか感じていない様子。