愛を込めて極北

 安全な場所で、無責任なことを言いまくっているマスコミにはとても腹が立った。


 だけどマスコミの影響力は大きく、すっかり楠木は「無計画で自業自得に遭難し、にもかかわらず我々の税金の無駄遣いを強いる迷惑な人」扱い。


 おかげで事務所にも抗議の電話やファックス、メールなどが来るようになり、私たちを悩ませた。


 迷惑なので通信機器全てをシャットアウトしてしまいたいところだけど、現地からの最新情報も随時届けられるため、そうはいかない。


 抗議どころか冷やかし目的のイタ電、無言電話も相次ぎ、非常に迷惑した。


 あいも変わらずテレビをつけると、コメンテーター達が勝手な「正論」をほざき続ける。


 それを真に受ける視聴者たち……。


 ……こんな状況下において、もしも楠木が生還してここに戻ってきたとしても、それはハッピーエンドとなり得るのだろうか? と考えさせられる。


 かつてあったように帰国後延々と「自己責任論」に基づく批判にさらされ、国中からバッシングされ、今後の活動どころか日常生活にすら支障をきたす。


 そんな状況が十分に予測されたため、楠木の無事を祈る自分に対してまでも、非常に迷いを感じてしまうほどだった。