さらにコメンテーターの攻撃(同じ「こうげき」ならば口撃、と表現したほうが的確かも)は続く。


 「何年か前に、北海道の夏山で登山者の遭難事故があったじゃないですか。カレンダー上では真夏でも、高山は天候が崩れたらあっという間に冬到来なんですよ。そういうところに軽装で出かけて行った人たちが、多数犠牲になりました」


 そう前置きした上で、


 「遭難現場付近に取り残されたリュックサックをご覧ください。この旅行家もかなりの軽装で活動していたことが推測されます。しかもこれは北海道ではありません。北緯66度付近、北極圏ですよ北極圏!」


 センセーショナルにまくし立てる。


 「北極圏の気候はツンドラ気候か、氷雪気候。すなわち寒帯です。つまり一年中冬と判断すべきです。北極圏の夏でも、ここ東京の冬よりはるかに過酷な気候なのです。一見して夏の穏やかな日でも、天候悪化と共に季節は冬に一変するものです。そんな地域に観光旅行気分で出かけるとは、危機管理能力の欠如を指定せざるを得ません」


 コメンテーターの一方的な主張に、司会者やゲストたちもただ頷くのみ。


 スタジオの雰囲気は、このコメンテーターの主張が正しいといった空気に支配されてしまった。