ワイドショー内、「極北旅行家、行方不明」の特集が始まった。


 真ん中に司会者やコメンテーターが並んで座っており、その背後のパネルには楠木の顔写真と共に、遭難現場に置き去りにされていたリュックの写真が提示されていた。


 テレビの字幕には、ご丁寧に「イケメン旅行家」との文字まで。


 司会者の男性アナウンサーは今回の一件を、大袈裟なほどセンセーショナルに伝える。


 かえってそれにより、楠木の計画がふざけたもののような印象を、視聴者に与えかねない。


 「大航海時代や、19世紀イギリス海軍による北極海の航路を探すのがブームだった時代の、国家プロジェクトならまだしも」


 すると司会者の脇にいたコメンテーターの中年男性が、信じがたいことを口にし始めた。


 「今の時代、何が楽しくて北極くんだりまで出かけていくんでしょうね。別に国家の要請があるわけじゃないし、それによって莫大な利益を日本にもたらすわけでもないのに、何を好き好んで命を縮めに行くようなことをするんでしょうか。これは一種の自殺行為ですね!」


 テレビの前で、私たちは唖然とした。