愛を込めて極北

 「暁も生き延びるためには、それくらいの手段を取らなければならないかもしれないのよ……」


 「百合さん、楠木さんがカニバリズムに手を染めるとでも? 楠木さんは基本一人旅ですし、誰の肉を食べるんですか。もしかしたら所持している銃で、小動物を手にかけるくらいはあるかもしれませんが……」


 おそらく食料は、クマの爪の後が残されたリュックの中に置いたまま。


 何も食料がない状態で、極北の過酷な環境下に放り出された楠木。


 現地も一応は夏なので、一夜にして凍死するような寒さはまず訪れないだろうけど。


 食糧不足で、時には氷点下になりうる極北の地を歩き続けるには……限界がある。


 楠木が行方不明になったキングウィリアム島は、日本の四国よりもちょっと小さい島で、人口は千人程度。


 そのほとんどはジョアヘヴン周辺に居住しており、北極海から押し寄せる流氷に晒される西海岸は、ほとんど無人地帯。


 「ほら、居住者はいなくとも、辺りを行きかうイヌイットは結構いるらしいです。誰かに発見されて食べ物も分け与えてもらえるだろうし、そこからベースキャンプに連絡も入りますよ」


 最悪の事態ばかり予想する百合さんを励ますために、少しでも生存可能な展開をあれこれ考えてみた。