愛を込めて極北

 「出発直前はひたすら穏やかに過ごして、目前に迫った旅に集中できるようにしてあげるのが、妻の役割だとは分かっていたはずなのに……」


 百合さんはひたすら悔やみ続けていた。


 自分の要求ばかり主張して、楠木のことを少しも慮ってあげられなかったことを。


 そんな大事な時に、余計な秘密を暴露したり楠木に衝撃を与えるなどして。


 後押しとなってあげるどころか、見事に足を引っ張るような言動に徹してしまったことを。


 「もはや予定をキャンセルなどできないから、暁は予定通り旅立って行ったけど……。内心旅どころじゃなかったはず。心はズタズタだったはず……」


 「百合さん、落ち着いてください」


 私は泣き崩れる百合さんを、慰めるしかできなかった。


 プライドが高くて常に自分が正しいと思い込んでいるところがあり。


 こんな事態になろうものなら責任転嫁して、私を責めて来るものとばかり予想していた。


 ところが実際は。


 ひたすら楠木に対する自分の言動を責め続け、泣き続けるばかりだった。


 確かに前日に余計なストレスを与えるという、冒険者の婚約者としては最もしてはいけないことをやらかしてしまったけれど。


 もはや私は、百合さんを責めることはできなかった。