東さんがこの講演会にサポートしていることもあり、関係者用の前方席に案内された。


 壇上ではスタッフたちが設営準備中。


 ここからだと壇上の人たちの表情もはっきりと見える。


 ということは、壇上からこの辺りの来場者の顔も、はっきりと見えるのだろう。


 ……私のこと、覚えているのかな?


 別に期待しているわけではない。


 あちこちであのような展示会や、今日みたいな感じの講演会を四方八方で開催していて、来場者全員の顔なんてとても覚えきれないだろう。


 ……入場時に配布されていた小冊子のようなものを開き、イベント開始を待つ。


 表紙に本日のイベント名と概要。


 表紙を開くと、極北旅行家・楠木暁のプロフィール。


 Facebook上に記されていたものと、ほぼ同様の内容とはいえ、再度目を通す。


 平凡な大学生で、普通に就職して昇進して……って安心安全安定な人生が待っていたはずなのに。


 どうしてこのような非現実的で非日常的な夢を見るようになり、そしてそれを現実に変えてしまったのだろう。


 そのような疑問がたくさん存在し、ある種の関心を持ち始めていたのかもしれない。