愛を込めて極北

 「極北の地を一人、今後のことも考えながら歩いてくる」


 ……楠木の最後の言葉を繰り返し、百合さんは頭を抱えていた。


 まさに玄関を出て行こうとする楠木の腕を掴み、「私を捨てて美花さんを選ぶの?」としつこく追いすがり。


 ついには禁断の一言も……。


 「私と結婚しないのなら、今後のリブラン社からの支援一切止めてやる!」とも。


 しかし楠木は動ぜず。


 「一生百合の世話になり続けるわけにはいかない。これからは自分の力で活動を続ける」と。


 すかさず「そんなことできるもんですか! 業界に手を回して妨害してやる!」と売り言葉に買い言葉。


 もはや百合さんへの気持ちが冷め切っている楠木は、「一生奴隷のような立場に甘んじるくらいなら、冒険活動を卒業して一社会人としてこれからは生きていく」と卒業宣言。


 「あなたが極北から離れて生きていけるとでも?」


 「……何らかの形で関わり続けるつもりだけど、もう百合の世話にはならない。今までの支援も少しずつでも返していくから」


 「そんなの要らない! 私には、ただ……」


 暁がいればそれだけでいい。


 そう告げることがもはやできなくて。


 立ち去っていく楠木を、百合さんは黙って見送るだけだった。