愛を込めて極北

 「……妊娠していないことを、いつまでも隠し通せるはずもないのに。この先どうするつもりだったんだ?」


 「暁を私のものにする。それが最優先で、その先のことは何も考えていなかった……」


 「だったら、生まれて来る子供を楽しみにしてた俺の気持ちは、いったいどうなるんだ」


 「ただの義務感で結婚を受け入れただけで、子供なんて重荷に過ぎなかったくせに……」


 「確かに最初はそうだったけど、時間が経つにつれて、自分の血を受けた子供がこの世に誕生するという期待も大きくなりつつあった。だから、何もかも裏切られた感じだ」


 「結果的に騙してしまったも同然だけど、そうでもしなきゃ暁は私との結婚を受け入れなかったし、美花さんの元へ逃れるつもりだったんでしょ!」


 「それとこれとは、別問題だ」


 ついに楠木は立ち上がり、部屋を出て行こうとした。


 「私が嫌いになったんでしょ! これから美花さんに会いに行くつもり?」


 「どうやって」


 時計を見上げて楠木は苦笑した。


 今からだと新千歳行きの飛行機に間に合うはずもない。


 「出発前夜は、静かに過ごさせてくれ」


 そう言い残して、楠木は百合さんの部屋を出て行った。


 「見送りに来なくていいから」


 とも告げて。


 「極北の地を一人、今後のことも考えながら歩いてくる」