愛を込めて極北

 「いや、俺は明日早いし。五時には成田に向けて出発しなければならない。百合は今が一番大事な時だから、」


 「もっともらしい説明なんか要らない。私のことを大切に思うのなら、証拠を見せて」


 百合さんは楠木に抱くように迫った。


 「だから、百合は今……。こんなことしてる場合じゃないだろ?」


 「それなら、子供がいなかったら抱けるの?」


 「え?」


 「……妊娠は間違いだったと言えば、抱いてくれる?」


 「は……?」


 「だったらはっきり言うわ。妊娠は私の勘違い! それなら抱いてくれてもいいでしょ!」


 「な、何だって!?」


 さすがに楠木も驚いた。


 「ね、暁……」


 「どういうことだ!」


 首筋に迫る百合さんの手を、楠木は思わず払いのけてしまった。


 乾いた音が響き渡った後、部屋は沈黙に包まれた。


 カーテンの閉められていない窓からは、冷たく月の光が注ぎ込むのみ。


 「……俺を騙したのか」


 淡々とした低い声に、百合さんは楠木の怒りの大きさを悟る。