愛を込めて極北

 「子供、だめだったの……」


 やはりそうか。


 「それは私、失礼なことを」


 「いえ、違うの」


 「えっ」


 「子供……初めから存在してなかったの」


 「は?」


 つい大声を出してしまった。


 いつの間にか事務所の人たちは、こちらの様子を窺っている。


 ただならぬ状況の「婚約者」と、「かつて交際が噂されたスタッフの女性」との話し合い。


 気にならないと言えば嘘になるだろう。


 「何ですって!? まさか……楠木さんと結婚するために、嘘ついてたんですか!?」


 響さんが割って入ってきた。


 思わず声が大きくなり、険しい表情を見せる。


 「そんなつもりじゃなかったの……。生理が二か月来なくて、初期症状っぽいのがあったから、自己判断で……子供ができたと」


 「病院で診察を受けたわけでもなく……。検査薬でチェックもしなかったんですか?」


 「怖かったの! これが真実であると思い続けていたかったの!」


 百合さんは吐き捨て、再び泣き始めた。