愛を込めて極北

 「ごめんね、急かしちゃって」


 高速に乗って運転が落ち着いてきた頃、ようやく響さんが口を開いた。


 「いえ、事は一刻を争いますので」


 「さっきの男の人は誰? 親密そうに話し合っていたみたいだけど。重要な要件だったんじゃ」


 「サークル仲間関連です。話の続きはまたの機会にできますので、大丈夫です。今は楠木さんの件を優先で」


 たぶんあの人との続きは、もう訪れないような予感がしていた。


 でもそれより今は、楠木の安否のほうが気がかりだ。


 「キングウィリアム島で行方不明っていったい……」


 響さんの話によると、キングウィリアム島西岸を、海岸線に沿って移動中だった楠木からの定時連絡が、突如として途絶えたという。


 キングウィリアム島西岸の沖合、約25キロの地点にて、フランクリン隊の生存者たち(その時すでに艦長フランクリンは死去していた)は二隻の艦船の放棄を決意。


 二年以上にもわたって海氷に閉じ込められた船を放棄して、氷の上をキングウィリアム島へと移動。


 そこでしばし休息の後、カナダ本土にあるハドソン湾会社(イングランドが経営する国営会社)の基地へと向かって行軍を開始したものの……。


 誰一人として生きてたどり着いた者はいなかった。


 その「死の行軍」のルートを楠木は辿ろうとしていた。