愛を込めて極北

 「美花ちゃん、急いで私の車に乗って! あ、その方は?」


 車の窓を開けて、反対側の車線から私を呼ぶ響さんは、私の横に停車している高級車に気が付いた。


 「あ、こちらは……」


 もうすぐ私の彼氏になるかもしれない人。


 でも今ここを離れてしまっては、それっきりになってしまうかもしれない人……。


 「どうしても外せない用とかなかったら、急いで私の車に乗って! 楠木さんの事務所には、もうマスコミも集まり始めているみたい」


 「……」


 迷いに迷った。


 楠木の事務所には、もう二度と行かないと心に誓っていたから。


 あの世界への扉に再び手を触れることは、絶対に避けなければいけないと分かっていたから。


 そうしないと私の一生はメチャクチャに……。


 「美花ちゃん、こうしている間にも事態は刻一刻と」


 遠く離れたこの日本で、いくら第三者がジタバタしても、どうすることもできないのもまた事実。


 自家用ジェットを飛ばしてカナダ極北に行けるわけでもないし、できたとして素人が極地でウロチョロしても二次災害の危険性が大きいだけ。