愛を込めて極北

 「とにかく! サラリーマン云々以前に、これから生まれて来る子供のことを最優先に考えなきゃだめなんじゃないですか?」


 「まだ本当かどうかも分からないのに、そんな……」


 楠木は私を引き寄せるような仕草を見せた。


 「私、二股とか不倫とか、そういうの絶対嫌ですからね!」


 「不倫? 俺独身だし」


 「子供が生まれるのなら、百合さんとの今後も考えるのが当然でしょう! 何らかの事情で事実婚とかするんじゃなければ、普通籍を入れ結婚することになるんじゃないですか!?」


 「結婚? 俺が百合と?」


 とんでもない、といった表情が浮かぶ。


 「逃げる気ですか? 今まで婚約者関係をちらつかせて、散々甘い汁を吸ってきたのに! 都合がよすぎませんか?」


 「だって俺は、お前とのこれからを考えるつもりでここに」


 「まだそんなこと言ってるんですか! いい加減にしてください!」


 その腕を振り払い、私は立ち上がった。


 「そんな恩知らずで非常識なことばっかり言ってたら、天罰が下りますよ! 北極海に沈むフランクリンの沈没船に引きずり込まれ、氷浸けになって永遠に海底に沈んでてください!」


 最終通告を下した。