愛を込めて極北

 「それって、本当なのか?」


 楠木は現実を認めないばかりか、疑ってかかった。


 「何かの間違いじゃないのか?」


 ついには現実を否定するような発言も。


 「……よくもそんな、無責任なことが言えますね」


 ますます腹が立ってきた。


 「心当たりがないって言うんですか? やることやってんなら、いつ子供ができても不思議じゃないでしょ!」


 二人が関係を持っているのは、百合さんの言葉からだけではなく、周知の事実だし。


 現に私も春の夕暮れ、バルコニーで抱き合いその後カーテンの陰で絡み合う二人のラブシーンを目撃してしまったこともある。


 「だって百合は、俺に何も」


 「まだ妊娠初期だから、落ち着いたら伝えるつもりのようなこと言ってましたよ。来年の初めに出産予定だって」


 「来年の初め……」


 楠木は考え始めた。


 おそらく子供ができた日はいつのことか、遡って計算しているのだろう。


 百合さんの「生まれるのは来年の初め」という発言から想像するに……受精という現象が達成されたは今年の冬の終わり。


 楠木は幾度となく、「気乗りがしない」とぼやきながら東京に「スポンサー詣で」を繰り返していた。


 その際のいずれかに百合さんと会い、そして体を重ねて……。