愛を込めて極北

 「子供……?」


 楠木は驚いた表情を見せる。


 もしかして……私が知らないとでも思っていたのか?


 「子供って、何のことだ」


 「知ってるんですからね! 百合さんは妊娠中で、来年には子供が生まれるんでしょ!」


 「は?」


 絶句するその姿は、嘘をついているようには見えなかった。


 もしかして本当に知らなかったのかな?


 そういえば百合さんは、楠木にはまだ伝えておらず、周囲にも安定期に入るまでは伏せておく……って言ってたような。


 「百合が妊娠? 百合から聞いたのか?」


 楠木は本当に知らなかったらしい。


 昨日百合さんがわざわざ事務所まで来て、居合わせた私にそう告白したのだけど。


 翌朝朝一番の便で東京に戻った百合さんは、逆路線で朝一番に北海道に戻ってきた楠木とは、見事すれ違い。


 当然直接話をする時間はなかったし、それどころか百合さんは楠木に、北海道にまで飛んで私に妊娠を告げたことを伝えてなかったらしい。