愛を込めて極北

 以前……百合さんの存在すら知らない頃の私だったら。


 こんなことを言われて、舞い上がっていたかもしれない。


 でも今はそうはいかない。


 百合さんのこともあるし、それに……。


 「頭おかしくなったんじゃないですか」


 「えっ?」


 「頭がおかしくなったんじゃないのなら、楠木さんは単なる愚か者です! 馬鹿です!」


 急に怒りが込み上げてきた。


 「お前が怒るのも無理はない。百合のことでは散々迷惑をかけた。百合からも直接、嫌なことたくさん言われていたのも知っている。どんなに謝っても謝り尽せない」


 楠木の謝罪のピントがかなりずれているのも、私の怒りを増幅させた。


 「非常識すぎませんか?」


 「俺も反省している。夢のためには手段を選ばずにいた。いくら極北旅行続けたいからって、非常識すぎた」


 「だから……そうじゃなくて」


 「モラル的に許されないことを続けてまで、夢を追い求めるのはよくないことだとようやく悟った。恥ずべきことだと」


 楠木は私が怒っているのは、単に百合さんとの関係についてだけだと誤解している。


 「お金のために、好きでもない女に偽りの愛を囁いている自分につくづく愛想が尽きた。これからは自分に正直に生きたい。……お前と幸せになれるのなら、こんな冒険活動なんて終止符を打って、普通のサラリーマンになってもいいって思った」


 は?


 普通のサラリーマン?